こまきね流自然塾    筆者と共に、身近なところに宇宙の真理と神秘を探して見ませんか?

Vol.1 百合の引っ越し
Vol.2 『手の平を返す』ガクアジサイ
Vol.3 遅れてくる子たち
Vol.4 「実を着けるということ」
Vol.5 「産まれたところが一番<前編>」
Vol.6 「産まれたところが一番<中編>」
Vol.7 「産まれたところが一番<後編>」
Vol.8 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<前編>
Vol.9 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<後編>

Vol.10コケリンドウ

 

 


『遅れてくる子たち』
 ・・・・・種の保存の知恵・・・・・   ――― 植物のイデアB―――

 ツツジ科の花のなかで、ツガザクラやドウダンツツジのように壷型に咲くもののほかは、どの種でも、開花後間もない花を、逆光に透かして見ると、まるで肉眼でさえ細胞膜が分かるように、きらきら輝く結晶体の集まりに見えます。思わずルーペでのぞいてしまいます。

 なかでも、高山性のキバナシャクナゲの花は、クリーム色のできたてのシャーベットをミクロン単位の薄さに引き伸ばしたように、逆光のなかでたくさんの細胞がきらきら輝きます。厚みがあり硬めな葉とは対照的な、華奢に見える花です。
                  
 キバナシャクナゲは、自生地が高山のやや湿地であるため、ハイマツとは気の合う隣人です。そのハイマツの枝を揺らすような冷気の強い風にあたると、一見、ガラス細工のようなこの花が、壊れはしないかと案じられるほどです。

 ところが、5〜6個の花が一箇所に散房状にまとまって咲く鮮やかな黄花は、高山特有の横風にも、健気に、凛としています。7月下旬あたり、「凛とした」花たちに会えるのが、中部山岳や蔵王に出かける楽しみの一つでもありました。


 


 何年か前の8月半ばのこと、近くに寄ることがあり、時間を割いて蔵王に登ってみました。時期がやや遅れていたので、キバナシャクナゲの満開の花たちには会えないなと思いながらも、半ば期待しながら足を運びました。
 地を這うハイマツの枝枝の先端に、新芽の部分が新鮮な緑の玉のように目立っていました。やはり、「凛とした」黄花の群れには会えませんでした。

 しかし、意外な光景を目にしました。房状に枯れかかったキバナシャクナゲの花柄の塊のなかに、一つだけ、時期遅れの黄花がぽつんと立って咲いていたのです。それが、あちらにも、こちらにもという状態で、ハイマツとキバナシャクナゲの混在する地帯のいたるところに、一つだけの花が見られたのです。

 シャクナゲの花の付き方は房状の集散花序の形ですので、数個の花柄の一番先端にある一つだけが、つぼみ状を長く保ち、時期をずらせて開花していたのです。『遅れてきた子』なのです。驚きでした。





 この驚きには、20年あまりにわたる、もう一つの私の体験があったからです。同じく高山性植物のミヤマオダマキの栽培にかかわるものでした。

 ミヤマオダマキを手にしたのは、『山草造型』など多数の著作を残された秋草実さんから、鉢ごと直接いただいたときです。株元から花頂まで5pほどの高さです。せいぜい伸びてもアポイギキョウほどです。種子も良く採れましたので、鉢数を増やし、仲間のかたがたにも分けました。

 秋草師匠直伝の栽培法を、確実に守り通して、種子からではなく、元株を大事に大事に、花後の植え替え、株分けを忠実に行ってきたのです。

 この「花後の株分け・植え替え」で、奇妙なことに気がついたのです。ミヤマオダマキにも、『遅れてくる子』が、必ずといっていいほどいたのです。常に10鉢くらいのミヤマオダマキが、東京の3月下旬〜4月初め、一斉に開花しました。濃紺に近いブルーが、5p前後の高さで咲くのです。それでいて、「楚」と「凛」を漂わせるのです。「楚」と「凛」は、朝夕、肌を刺す冷気のせいかもしれません。

 『遅れてくる子』は、花の「旬」が過ぎた頃にやって来ました。他のものが実入り半ばになったころに、ひとり、ぽつんとやって来ました。「花後の植え替え、株分けに迷いをおこしたのもでした。

 

 

 

 

 20年後の今、平地に降りてきて、安楽の日々を過ごしているミヤマオダマキは、毎年5月初めころ数個の平凡な花をつけます。『遅れてくる子』はもうだれもいません。背丈も20cmはあるでしょう。「ミヤマ」の名を冠ぶせるには少し気恥ずかしい姿です。安心しきった生き方なのかもしれません。株は、あの凛としたときのそのものなのですが・・・。

 振り返ると、植物たちは、今も「進化」と呼ばれる環境との適応・調整・共存のみちを歩んでいるのですね。『遅れてくる子』は、万全を期す彼らの奥深い、畏れを感じるほどの知恵なのではないでしょうか。


by F.KOMAKINE





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