こまきね流自然塾    筆者と共に、身近なところに宇宙の真理と神秘を探して見ませんか?

Vol.1 百合の引っ越し
Vol.2 『手の平を返す』ガクアジサイ
Vol.3 遅れてくる子たち
Vol.4 「実を着けるということ」
Vol.5 「産まれたところが一番<前編>」
Vol.6 「産まれたところが一番<中編>」
Vol.7 「産まれたところが一番<後編>」
Vol.8 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<前編>
Vol.9 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<後編>

Vol.10コケリンドウ


   
「百合の引っ越し」

         ――― 植物のイデア@ ―――

 

 百合が、自分で引っ越しするんです。住所変更届は出しませんが、自分の意志で引っ越すんです。驚きました。

 わたしがちょっとしたことで、夏から翌春にかけ、半年ほど留守にしたものですから、手も声もかけてやれなかったんですね。そしたら、いきなりの引っ越しなんです。もちろん冬の間は、雲隠れですからそれに気付きませんでした。
 春先、移動先からいきなり芽だし挨拶状が、とんでもないところから届きましたので、引っ越しの事実がわかったようなわけです。

 



 この百合、伊豆・八丈島から少し離れた小島(故あって詳しく明かせないのです)の高貴な生まれのため、毎年秋遅く、新しいコンポストの貢ぎ物で囲んであげなければならなかったのに、わたしは、それを怠りました。 

 この高貴な方の名を「サクユリ」、またの名を「タメトモユリ」と申します。わたしがきちんと貢ぎ物を捧げていた頃は、直径約30cmもの、香り高い純白の六枚花弁の花を5〜6個は見せてくれていました。ヤマユリの花のゆうに三倍の大きさ。それに、ヤマユリの花弁の内側にある茶褐色の斑点など、何一つ見当たりません。純白か、ややクリーム色の艶やかな液体が今にも滴りそうな花弁です。百合特有の、外側への反り返り姿も満点でした。背丈は、人間の大人より高めの。堂々たる姿です。まさに源氏貴族のよう。



 

 瓜、キュウリ、茄子科、エンドウなどは忌地性の強い植物ですが、百合の忌地性は際立っています。用土を毎年変えてやるか、微量ミネラルの配合を加えてやるかしないと、確実に作落ちします。百合の引っ越しは、この自衛策だったのですね。

 サクユリのこの年の移動は、自分の球根(鱗茎)のサイズとほぼ同じ幅の距離でした。わたしにとっては、初めて気付かされたことでしたので、一種の感動でした。

 そこで、他の地方の自生のヤマユリにも、そのような移動がみられるかどうか気になり、伊豆半島中程の大室山麓の一画に、二株のヤマユリに目を付け、目印の金属棒を立てて調べました。明らかに、それぞれの株が、自株の大きさに合わせた距離で、引っ越していました。調べ始めて三年たちますが、毎年、律儀に引っ越ししています。目印の金属棒を毎年刺していきますので、旧住所から一列に並んでいます。今年四本目を、それぞれの株にたてます。

 プラトンはイデアを哲学の中心に据えました。難しいことは分かりませんが、植物の生態には、まるで意思があるように見える奥深い知恵を感じることがあります。自然の畏れ。何千年にもおよぶ進化の歩みです。イデアは、いまもなお、進化を続けています。植物のイデア。不思議です。
 園芸種の百合の引っ越し、どなたか、教えてください。
 もし、こんなことでよろしかったら、つぎの植物のイデアの扉を開けましょう。



文 : 駒木根 文幸





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