こまきね流自然塾    筆者と共に、身近なところに宇宙の真理と神秘を探して見ませんか?

Vol.1 百合の引っ越し
Vol.2 『手の平を返す』ガクアジサイ
Vol.3 遅れてくる子たち
Vol.4 「実を着けるということ」
Vol.5 「産まれたところが一番<前編>」
Vol.6 「産まれたところが一番<中編>」
Vol.7 「産まれたところが一番<後編>」
Vol.8 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<前編>
Vol.9 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<後編>

Vol.10コケリンドウ

 















 

――― 植物のイデアH―――
            

    オキナグサの「啓蟄(けいちつ)
  <後編>

オキナグサ
 
≪花も美しい≫

 うぶ毛のついた花茎の長さは5〜6cmほど。花の大きさ約3cmくらい。1本の茎に1個の花を咲かせます。1つの株元から1〜2本の花茎。大きい株で2〜3本です。切れ込みの深い、形のいい数枚の根生葉が、その茎を束ねるように包んでいます。その1株が、そのまま、まるでプレゼント用にラップされた花束のようです。冬の間に雪や霜に晒され、白っぽく脱色した枯れた芝草の丈より少しだけ背伸び加減の、野に置かれた花束です。





 花びらと顎で6枚の花弁状をつくり、萌え出るときの絹毛をまとっているので、遠目には銀白色の繭玉に映ります。ところが、うつむき加減で半開きの花に近づき、内側を覗いて見るほどに、その色合いのあまりの温かさに意表を突かれます。赤紫色に燃えているのです。花の奥まった中心に密生するオシベの花粉が、あざやかな黄色であるのも、外側の冷たそうな色に対して、内側の熱さを感じます。
 特に陽光が直接当たると、それまでやや閉じ気味の花も、敏感なセンサーが働き、まるで扇を開くように、花口を少し広げます。その時の逆光に透けて見える花の色は、胸をドキドキさせます。真紅のビロードを思わせます。早春、この草は、“翁=オキナ”などではありません。
   


 花が終わり、周りの草が伸びてくるころ、それまでうつむき加減だった花茎の先端は、数日して頭をまっすぐに起こします。オシベが抜け落ちたその頭頂は、長さ2〜3mmの歯ブラシ状の毛をつけた、子猫の鼻先ほどの緑の玉になっています。

 この草は、さらに驚くような変化を起こします。開花の頃は大人の人差し指ほどの長さしかなかったなかった花茎が、初夏から梅雨入りの頃までに、他の草々より抜きんでて、なんと元の2倍を超えるくらいの高さに伸びています。恥じらい気味だった茎のうなじは、真っ直ぐに天を指しています。茎そのものがまるでミニ竹竿になったよな変化です。
 変化は茎の長さだけではありません。その先端の歯ブラシ状の毛にもおよびます。50〜60本はあるだろうと思える糸のような毛が、青紫色の艶を増しながらどんどん伸びてきます。2〜3mmにもなり、茎の頭頂を隠すように糸の1本1本が弧を描き、全体としてピンポン玉ほどの球形を作ります。

 

 変化はまだまだつづきます。それは頭頂の1本1本の糸に現れます。細い糸が、陽光にあたりしばらくすると、あるものは先端から、ある糸は中ほどから、ムクムクという感じで膨らみ、やわらかい、綿状のものをはじき出すように見えます。それまでの糸が、羽毛状姿を変えるのです。
 よく見ると、1本1本の細い糸の芯の周りを、羽毛か綿のような白い繊維をおおっています。それはもう「糸」ではなくて、綿毛です。糸の付け根の1mmほどの実が熟したのを悟り、内部に備えていた折りたたみ式綿毛をいっせいに広げたのです。知恵をそなえた生き物です。まさにイデアを感じるときです。

 

タンポポ




 全部の糸が膨らみ終えると、白髪をたくわえた翁がそこにいます。野原をわたる風を受けると、オーケストラの白髪の指揮者の髪が揺れ乱れるように震えます。
 やがて翁の綿毛は、高く掲げられたミニ竹竿の先から、風に乗って、不器用に飛び立ちます。飛び立つというより、風に乗り損なった風情に見えます。この不器用さが、この草らしいところです。
 実は、ここにもイデアがあるのを感じます。それは、タンポポのタネの飛翔にくらべて感じる、この草の奥深い知恵のことです。
 タンポポのタネの旅支度は、空中に舞い上がり、遠くまで移動するのをあらかじめ見込んだ、2〜3日分の弁当まで用意したような落下傘タイプです。いわば国をこえてでも新天地に根付こうという旅立ちです。冒険家です。

 

 

 対して、オキナグサの支度は、あまり遠出をしない、汗を拭う程度の布とおにぎり1食分わ背中にくくリつけ、綿づくりの寝袋持参タイプなのです。国境を越えたり、ジャングルに入り込んでの新地開拓には向いていません。
 風に乗るのが下手なのではなく、自分のねらいにあった旅支度なのでしょう。おそらく、何千年、何万年もの時間をかけての、今の生き方なのだと思います。
 このタネが芝草にたどりつき、そこから地中にたどりつき、そこから地中に潜り込むまでの姿は、また一編のドラマです。

 

by F.KOMAKINE

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