こまきね流自然塾    筆者と共に、身近なところに宇宙の真理と神秘を探して見ませんか?

Vol.1 百合の引っ越し
Vol.2 『手の平を返す』ガクアジサイ
Vol.3 遅れてくる子たち
Vol.4 「実を着けるということ」
Vol.5 「産まれたところが一番<前編>」
Vol.6 「産まれたところが一番<中編>」
Vol.7 「産まれたところが一番<後編>」
Vol.8 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<前編>
Vol.9 オキナグサの「啓蟄(けいちつ)<後編>

Vol.10コケリンドウ
















 

『産まれたところが一番』<後編>
                ――― 植物のイデアF―――
 


お待たせしました。11月15日に引き続き、後編をお届します。
 
 

 ところで・・・・・・、家の屋根上。わずか、7m×7mの限られたスペースに、水生植物から高山性のものまで、階段状の棚を設けるなどして、大小おおよそ1000鉢あまりの草々を育てています。
 このシリーズで紹介したオダマキ、シラネアオイ、アポイギキョウなどもここの住人です。雪解け後の尾瀬の流水路に咲く、あのまぶしいほど鮮やかな黄金色のリュウキンカ、初夏のニッコウキスゲ、スイレンの一種ヒツジグサなども、もう30年あまりここの住人です。

 そんな中、手入れの届かない鉢に、まるで子ども時代に流行った遊びの「陣取り合戦」のように、他の鉢に進出する植物があります。シダの一種のイワヒバです。
 胞子が飛んで増えるので、初めは鉢の隅の方に遠慮がちに住んでいますが、やがて、勢力をまして鉢全体を覆います。そのころになると、もとの宿主はだれだったか分からなくなります。昔からそこが自分のもののように、イワヒバが振舞います。

 そんなイワヒバの本家ともいうべき古株があります。60〜70年もので、風格があります。根元から腰まわりにかけて、薄緑色の苔をまとっています。古老という感じです。長径60cm余の楕円形の鉢には、デンと構えています。

 ところがその古老のイワヒバに、いつの間にかウチョウランが住み込んでいたのです。発芽してから花を着けるまでには少なくとも3〜4年かかります。傘のように広がっているイワヒバの葉から抜きんでて、鉢のあちらこちらに背を伸ばし、花を咲かせたのです。良く観ると、古老の鉢ばかりではなく、散在しているその他のイワヒバのなかにも、ウチョウランが芽を出し、花を着けていました。

 ウチョウランを手に入れたい!と、強く願っていた30年前のことを思い出します。秋艸師匠、草仲間の池田さんと三人で、高田馬場を夜明け前に出発し、伊豆・下田のある寺の和尚さんを尋ねていきました。実生苗がたくさんあり、譲ってもらえるとの情報で、往復300kmを超える道程を車で行きました。行き着く前までの夢の膨らみと、現実の姿・・・・・・小さな一枚のトロ箱の砂の中に、か弱く細い数本の一年苗を目にした時の幻滅が、いまでもはっきり浮かびます。ウチョウランは貴重だ、と実感したのもこの時です。ですから、ウチョウランが、屋根上でこんなに簡単にあちこちに生えていたなど!思いも寄らないことでした。
  

 


 ところで、狭い屋上栽植場で、とても信じられないことが起こってしまいました。
 あんなにも余分な水気を徹底して嫌うウチョウランが、一年中水浸しの状態にしてある水盤のなかの一鉢に、たった一本だけでしたが、十数年ものあいだその場に生きつづけ、小さいながら花を着けていたのです。その鉢の主は、水無しには生きられない植物のモウセンゴケとミミカキグサです。

 虹色に輝くモウセンゴケの群れ。米粒ほどの大きさだが眩しいほどの紫色の花を林立させるミミカキグサ。これらの水生植物群は、ウチョウランにとってはまるで異邦人の森です。この異邦人の住む水浸しの苔床に、ランの種子が着地し、菌の助けを得て芽を出し、この地で花を咲かせていたのです。

 この余りの偶然や異常が、ひょっとして植物の生き方を変え、進化の歯車をまわす働きをしているのであろうか?などと思ったのです。実はこのことに、彼らのイデアを感じたことでもありました。


 

 

 今年・2002夏、異常な暑さがつづきました。
しかし、私は、毎朝、水盤の水を全取っ換えするまで注水し、新鮮な流れを作ってやるというだけの、例年と同じような手入れしかできませんでした。
いつもと違うやり方をする勇気がなかったのです。

 そしてついに、異邦人に囲まれていたウチョウランは今夏の暑さに堪えることができませんでした。途中まで伸ばしてきた花茎を、最後まで開くことができないまま、黒ずんだ葉となって枯渇しました。最初の花の発見から16年の命でした。子孫を残した形跡はありません。

 

 










by F.KOMAKINE




 ところで、その水盤の隣の鉢で起こっていた、もう一つ奇妙な仲間の取り合わせを見つけました。
 4〜5cmほどの高さに育ったイワヒバの生長点の真ん中に、なんと、モウセンゴケがちゃっかりと乗っかっているのです。モウセンゴケが線香花火のはじけた火玉のような格好で、イワヒバの傘のてっぺんで育っているのです。モウセンゴケの体の大きさから推測すると、今年の芽生えのものではないことが分かります。すでに2〜3年はそこで生活しているもののように思われます。
 父親に「肩車」をしてもらい、元気にはしゃいでいる子どものようです。この子は、冬、どのように過ごしてきたのでしょうか。

 狭い植栽場に起こった、あまりに不自然な自然に、罪を感じています。

 

   
     

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