――― 植物のイデアI――― コケリンドウ
この草は、自分で選んだ所から動こうとしない。生まれ故郷が大好きという性質がみられます。 リンドウの仲間には、一般にこの傾向があるようで、移植をとても嫌います。人間の手が加えられ、園芸化されたものは別として、ほぼ野生を保っているリンドウ科の草々は、似た性質を持っているようです。 例えば胃腸の民間薬として定評のある「センブリ(=トウヤク)」を、年間3トンも出荷するといわれる長野県でも、その多くを自生のものに頼っているといわれています。研究はされているようで、人間がタネを蒔いて、自生地そっくりの条件を整えてやっても、思うようにはならないということです。
今から二十数年前の四月半ば、箱根・乙女峠の日当たりのいい道端の草原で、とつぜんでしたが、まるで薄紫の小さな丸いコースターをいくつも広げたような光景を目にしました。ハイキングの足を止め、腰をかがめました。 驚きました。コースターに見えたのは、コケリンドウでした。陽光を受けて、一斉に花びらを開いていたのです。リンドウ類の花は、太陽に当ると開き、暮れるとまた閉じます。雨の日は、センサーがはたらき、閉じたままです。 ルーペで見ると、一個の花は径25mmほどで、花弁がまるで十枚に見えるほど、五枚ずつの花びらと外花被片が等間隔に連なっていて、漏斗状の花なのです。それが、一株当り、小さいもので5〜6個、大きい株では、20〜30個もの花がこんもりと中央部を膨らませ、海中の皿状のイシサンゴが地上で輝いているように見えたのです。
とんでもない所の鉢に、これまでには我が家で見たこともない、小さい小さい草の芽が出ていました。ハンンカチを四つ折りにして、几帳面に四方にロゼット状に配置したように葉を広げていました。ハンカチの一辺は2、3mm。慎ましやかに座っていました。コケリンドウが我が家に定着した時でした。
それから二十年余り、毎年、好きな所に、好きなだけ生きていてくれます。 今年のロゼットも、もう大きいものでは一枚の葉が20mm以上にもなっています。 いつの間にか、秋咲きのリンドウ(宿根性)も住み着いていました。