きんや先生の雑木ばなし    vol.15  寒い朝



 

 私は北国の生まれなので、他の人からは寒いのは平気だろうと言われるのだが、(実際には強いのだろうと思うが)、寒い冬は大嫌いである。
 遠野の冬はめっぽう寒い。最高気温がプラスにならない真冬日が何日も続き、最低気温がマイナス20度を超える日さえあるのだ。
 普通、日が昇り明るくなると暖かくなるはずなのだが、本当に寒い日は朝から温度が下がり始め、日中に最低温度を記録する日さえあるのだ。

 
 


 
 寒い日は嫌いだが、冬の朝がまた美しいのである。
鼻の穴さえピタッと凍りつく朝、とりわけ美しいのがホップ畑である。
もちろん地上部は枯れて何も無いが、5〜6メートルの支柱と蔓を誘引するワイヤーがすべて凍りつき、朝日にあたり金色に煌めき、その中をダイヤモンドダストがフワフワ漂う光景はなんとも美しい。
 しかし、そこの畑道を歩くと雪はキリキリと金属音を立てて鳴き、頭まで響く。吐息と鼻水がヒゲにみっともなく凍りつくのだ。
 「アー本当に寒いのは嫌だ」
 
 

 

 ところでこのホップ、日本には明治の初期に入ってきている。
主に寒冷地で栽培され、遠野でも畑や水田の中に2〜5反歩ほどづつ栽培され、各地に点在している。タバコとならぶ主要な作物なのだ。
 
 畝に沿って全面に支柱が立ち、下から見ているとなんともないのだが、ハンググライダーをやっている友人の話によると、上から見るホップ畑はまるで針の山のようで、休耕田に着地するときはとても怖く見えるそうである。
 
 ハンググライダーをすることは、多分無いと思うので実感はないが、夢では何度も空を飛んでいるのでなんとなく分かりそうな気がする。チャンスがあったら下をみてみよう・・・。
 
   彼曰く。「もう一つ怖いのが、飛んでいる時突然上空から『キーン』と音を立てながら急降下して、グライダーのわきをすり抜けていく鳥がいる」と。
 大きな餌か敵にでも見えるのか、猛然と突っ込んでくる勇者、それこそハヤブサである。
 『んーむ、彼ならやりそうなことだ・・・』。
しかし、しかしである、そんなハヤブサを、私は手で、この手で捕まえたのである。
 
 
 今から15年以上も前のある日の朝、私は家族の慌てた大声にたたき起こされた。
何事かと二日酔いの私はゆっくり起き母屋の方に行くと、家の中で灰色のカラスより大きな鳥が暴れているではないか!

 何と、スズメを追いかけてハヤブサが我が家のなかに突っ込んできたのだった。さすがの俺もビックリしたが、男は俺だけである。だまっていても逃げないので、すぐに毛布を持ってこさせ、アッチコッチとコーナーに追い詰めながら毛布をかぶせて、暴れる彼を何とか捕まえたのだった。
毛布を恐る恐るずらして両手で掴んで見ると、これがかっこいいのだ。
鋭い目とくちばし、そして爪。さすが猛禽類。近くで見るチャンスもあまりないのでマジマジと見つめていた。
     
   せっかく捕まえても、飼う事も出来ないので外に出て逃がしてやった。バサバサと2,3度音をたてたあとはスーと音もなく近くの山の方に消えていった。

 これは本当の話である。「写真を撮っていれば・・・」よかった。
いつかハヤブサの恩返しがくるだろうな―と、心の中で思っていた私だったが、
『まだない・・・・!』。
 
   


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